Where are you running from


 
本日より名古屋はON READINGにて展示が始まっています。
『みずのこどもたち』原画展 / あたたかい水
全国巡回をはじめたのがちょうど去年の5月。1年で10箇所を廻り、ここで11箇所目。
月曜日に自分で設営して来ましたが、なかなか気持ちよく収まったと思います。
会期は6/3まで。僕は20日と6月3日の日曜日に在廊します。
ぜひ遊びにいらして下さい。
 
 
展示タイトルの「あたたかい水」は体の中を流れる水をイメージしてつけたもの。
これは絵本『みずのこどもたち』を作った最初のきっかけに由来します。
 
数年前のある雨の日。
陰鬱な気分でアルバイトに向かう途中、
イヤホンでDaniel Johnstonを聴いていました。
駅を出て傘を差したとき、丁度流れてきた曲は『Running Water』
 
“Running Water
Running Water
Where are you running from
You always seem to be on the run”

 
その瞬間、傘に落ちた雨粒が、
傘を通り越して自分の体の中を通り抜けていくような感覚に襲われました。
 
僕は元来とても鈍感な人間で、
正直に言えば、絵を描くにあたって多くの場合は
それ程強烈なインスピレーションがあって描き始めるわけではありません。
 
でも、本当に稀に、何の前触れもなくこんなことが起こります。
 
体の中を感じる行為は決して閉じた行為ではなく、
むしろ内がひっくり返って外との境がなくなるところにこそ面白さがあります。
人間は大きく見ればただの”管”だと生物学の本で読んだことがありますが、
草も木も、人も動物も、そして大地も、みんな水が流れていることを思えば、
それ程違いがないような気もしてきます。
 
僕の中に流れるあたたかい水はいずれ僕を通り抜けて
そのまま誰かを潤すのでしょう。
みんな通り抜けていく。水も。風も。光も。生も。死も。
そう思うだけで、僕は何だかふわふわと体が軽くなる気がして、
こういうことをやりたい(描きたい)んだよなぁと、改めて思うのです。

もしお近くに来ることがあれば。

東京、大阪で展示が始まっています。名古屋では来週から。
 

 
【東京】
『プライベート・レジデンス』
Kiteの企画です。予約制で明日明後日まで。
 
壁に絵を飾るのではなく、壁に直接絵を描くこと。
 
描き手は体を空間まで運び(夜行バスで)、
壁にへばりつき(片手にパレット、片手に筆、足は脚立を踏みしめる)、
集中が切れれば勝手に本棚を漁り(双子の兄の本棚は昔から僕にとってのLibrary)、
気持ちが落ち込めばCDをかけ(Poguesの『Peace & Love』リピート)、
飯を食い、風呂に入り、寝て、そしてまだ筆をにぎる。
1週間程の滞在。徐々に馴染んでいく部屋と自分。
 
絵は、描いているうちはまだ自分の一部のようでも、
筆を置いた瞬間にはっきりと別離があるような気がします。
もしかするとへその緒を切るような感じかもしれません。
良い絵が描けた時はその別離がとても清々しい。
 
絵を内包する建物自体が取り壊される今回は、更なる別離が訪れます。
再会の叶わない別れです。
でもあまり寂しくないのは、あの部屋にしか描くことのできなかった絵だから、
残っても行き先の無い絵だからかもしれません。
あとは僕が昔に比べて少し薄情になったから。
お気に入りの絵が手元になくても、そのときそのときの絵が描ければ、
それで満足するようになってきています。
長新太は「絵は排泄物だ」と言い切っていますが、
その意味が少しずつわかってきたような気がしています。
 
建物が壊される前に、部屋を写真に収めて本を作ります。
この写真集は絵と空間に対する新しいプレゼンテーションであり、
古き良き物が壊されることへのささやかな抵抗です。
 
 

 
【大阪】
『はじまりが見える世界の神話』原画展
豊中のblackbird booksにて今週火曜日より開催中。
会期は5/27(日)まで。13日(日)、19日(土)、27日(日)の昼〜夕方に在廊予定です。
 
blackbird booksは関西に越してから一番通っている個人書店です。
Kiteの本も置いてもらっています。
大袈裟な演出は無くても、ムードのあるお店です。
そんな好きな場所で絵を飾れることの嬉しさと言ったら。
なんとか敷き詰めて12枚の原画と、販売用の小作品を展示しています。
 
6/2(土)のnakabanさんとのトークイベントも予約受付中です。
詳細、お問い合わせはblackbird booksまで。
 
本についてはまた次回詳しく書きます。
 
 

 
【名古屋】
『みずのこどもたち』原画展 / あたたかい水
ON READINGにて来週5/16(水)より始まります。
会期は6/4(月)まで。5/20(日)、6/3(日)の昼〜夕方に在廊予定です。
 
初めての東海地方での展示。絵本原画に加えて、販売用の作品も持って行きます。
全国を巡回しながら少しずつ描き下ろしを描き続けていますが、
最初に描いた約一年前の絵と比べるとちょっとずつ変わってきています。
一緒に並べると時間の経過も感じられて面白い。
きっと作者にしか気付けない程度の変化だろうと思っていたら、
「この絵とこの絵だけちょっと違いますね」なんて鋭いお客さんも時々いらっしゃる。
一度でよいから、誰かの目を借りて自分の絵を見てみたいものです。
 
初めての町に行くと、もしもここで暮らしたらどんな生活が待っているかと想像するのが楽しいです。
搬入を終えたら、銭湯や公園やレコード屋をハシゴしよう。

お便りを書いていこうと思います。


 
広島での初めての展示を終え、また絵を描く日々に戻っています。
 
READAN DEATの窓は見晴らしが良く、
下を走る路面電車や川の対岸にある原爆ドームが見え、
4月にしては少し強い日差しが風と一緒に出入りして、
それはそれは気持ちのよい時間を過ごしました。
 
どうして72年と8ヶ月前にここで起こった衝撃を想像できようか。
数字だけ見ると決して大昔のことではない。
自分が30を越えてからよりそう思うようになりました。
でも、やっぱり想像など追いつくはずもないと、
お店からの景色を眺めながらぼんやり考えていました。
 
予備校時代に丸山先生が言った言葉が忘れられません。
「戦争を体験した人はもう人生を3回生きたようなものなんだ。
戦前、戦中、戦後の3回。それぐらい違ってしまうんだ。」
 
初めてお店に伺って店主にお会いしたとき、
穏やかに見えて意思の強い方だと一目見てわかりました。
お店の佇まいが教えてくれたといったところでしょうか。
真摯な態度で営まれる、爆心地の上の個人書店。
またひとつ、好きな町と好きな本屋が増えました。
 
 
◎今週末からは東京。週明けからは大阪。再来週からは名古屋で展示が始まります。

東京はKiteの企画『プライベート・レジデンス』
予約制で、5月5、6、9、12、13日に開催。(6日(日)に在廊予定です。)

大阪はblackbird booksにて『はじまりが見える世界の神話』原画展
5月8日から27日まで。(13日(日)、19日(土)、27日(日)昼〜夕方に在廊予定です。)

名古屋はON READINGにて『みずのこどもたち』原画展 / あたたかい水
5月16日から4日まで。(20日(日)、3日(日)昼〜夕方に在廊予定です。)
 
 
色々思うところありまして、しばらくの間SNSから離れることに決めました。
今後はこちらで展示の告知をしていこうと思います。
 
日記は何度始めても続かない。
そう思って、なるべくお便りのように、
お知らせと日々のことを合わせて書いていこうと。
頑張って週に1度の更新を目指そう。
無理でもそう書いておきます。
 
宣伝文句や情報だけではこぼれてしまうこと。
例えば、
店主の奥さんが、ご主人のことを「てんちょー」と呼んでいるのがとても良かったこととか、
打ち上げの帰りに、夜行バスに乗るのをみんなが見送りに来てくれたことが照れくさかったこととか、
そういうことを忘れずに書いておきたい。
 
思い出したときに覗いてくれたら嬉しいです。
 
 
photo:Kano Chihiro

鰺坂さんに教わったこと


 
 
 
 

 
 
 
 

 
 
 
先週末は大阪のiTohenにて、
当ギャラリーのオーナーである鰺坂さんのトークイベントに聞き手として参加して来た。
 
鰺坂さんへの恩は数えきれない。
知り合って3年。まだ東京で燻っていた時分、
見ず知らずの僕の本をネットを通じて購入して下さった。
それからグループ展に誘ってくれたり、
絵描きとしての初個展もiTohenでさせてもらった。
一緒に仕事をしたいと思っていた人にも
鰺坂さんを通じて会うことができ、後に仕事も実現した。
 
でも、鰺坂さんへの恩はこういったギャラリーと作家という関係の中だけの話では決してない。
それよりは、芸術のもつ得体の知れない面白さに絡み取られた者同士として、
そしてその面白さに長いこと振り回されてきた先輩として、
文字通りこの世を生き抜くための示唆を惜しげ無く与えて下さったことに、
僕は何よりも感謝している。
 
鰺坂さんと出会わなければ
こうして関西に越してくることもなかったと思う。
 
トークイベントでは自身の生い立ちから、芸術に興味を持ったきっかけ、
故郷の鹿児島から大阪に出て来たときのこと、絵描きを目指し、挫折したときのこと、
そして15年前にiTohenを立ち上げた際のこと、と順を追ってお話いただいた。
インタビュアーとして褒められた出来ではなかっただろうが、
それでも僕自身はとても新鮮な気持ちで、
改めて一人の表現者としての鰺坂さんの輪郭をなぞることができた。
あまり自分の話はしない人なので、この日初めて知った事柄も少なくなかった。
 
自分の話をしないことに加え、鰺坂さんは作品に対してあまり個人的な評価を口にしない。
良い機会だと思い、実際どのように作品の善し悪しを判断しているのか聞いたところ、
「最近はお腹で見るようにしている。良い作品を見ると、お腹がじわーっと暖かくなるのでわかる。」
とのこと。更に伺うと、腸は第二の脳と言われているらしく、
人の意思とは関係なく自らの意思で動き、働くらしい。(確かに、消化に意思は必要ない)
また、手術の際に一度腸を体外に取り出し、術後に再度戻すと、
腸は勝手に自分で元あった位置に戻るんだそう。
 
この説明を聞くと、理性的な視点とは別の視点を持つためにお腹を使うという方法は、
あながち突飛なものでは無いかもしれないと思わせる。
何とも興味深い話だが、一方、20年以上芸術を見続けてきた人が、
このように言語化が不可能な感覚を頼りに作品を捉えようとしているところにも、
芸術の面白さとその深淵さが見て取れる。
 
鰺坂さんはいつも言う。
「芸術というものは無くても生きていける。それでも、やっぱり人にとって必要なものなんです。」
そこから返る「なぜ必要なの?」という問いへの答えを考える続けることが、
心豊かに生きるためのひとつの方法であることは間違いない。
 
芸術は有効だ。人に対して。社会に対して。
僕はそれを鰺坂さんに教わった。

ポーラー・エクスプローラーと酒屋のおかみさん


 
 
 
 

 
 
 
 

 
 
 
先週末に訪れた熊本。
路面電車の走る道は平に延びて、
空は広く、川が風とともにゆったりと流れている。
それはまるで寝息のような穏やかさ。
 
そんな街で出会った着物の女性。
原画展でお世話になっている長崎次郎書店の近くで
酒屋を営んでいるとのこと。
わざわざ僕の在廊日に合わせて駆けつけてくれたらしい。
着物を褒めると、
 
今日はキャバレーでとっても素敵なイベントがあったの。
ちょうど時間がかぶっちゃって、
もう帰っちゃったかなと思ったけど、とにかく急いで来たの。
イベントに向かう途中で、駅のほうから一人歩いてくる男の人を見て、
連れと一緒に「あの人が阿部さんかな?」なんて話をしてて、
それが合ってるか確かめに来たの。全然ちがった。
 
はつらつとした人。
きっと人生を楽しむ術を知っているのだろう。
そんなふうに思っていたら、別れ際にひとつ秘密を教えてくれた。
 
自分に必要なものや叶えたいことがあるなら、
まずは念じること。でもそれだけじゃなくて、
それがいつ叶うかをなるべく具体的にイメージすること。
何年後の何月何日みたいに、そこまで含めて念じるの。
そしたら叶うから。
でも、もしそれで叶わなくてもそれは貯金になるんだって。
 
聞いてすぐに、
以前本で読んだ、初めて南極大陸を犬ぞりで横断した探検家
ウィル・スティーガーの言葉を思い出した。
 
夢を実現するにはヴィジョンが大切だ。
そのヴィジョンがクリアになったとき…、
つまり欲しいものがはっきりとわかったときに、
”それ”は目の前に現れる。
 
ポーラー・エクスプローラーと酒屋のおかみさん。
二人の言葉が符号する。
 
また会いたい人が増えて、行きたい土地が増える。
僕は今何が欲しいのか。

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