民映研を見て考えたこと


 
旧グッゲンハイム邸で2,3ヶ月に一度開催されている「民映研」の上映会を見た。
「民映研」とは民族文化映像研究所の略称で、
日本列島の庶民の生活や生活文化を記録することを目的に、
70年代よりドキュメンタリー映画の制作を行ってきた研究機関のこと。
会ではその膨大なアーカイブの中から毎度数本をテーマごとに上映していて、
僕は毎回開催を楽しみにしている。
 
この日のテーマは「和紙」。福井の越前和紙についてのフィルムと、
もうひとつは僕が育った埼玉の小川町で作られている小川和紙についてのフィルムの2本立てだった。
どちらも伝統的な手漉き和紙制作の裏側を伝えるもので、紙の原料になる植物の栽培から始まり、
そこから紙漉きに至るまでの途方もない工程を皆ため息交じりに鑑賞した。
想像を超える手間と、経験からしか持ち得ない数々の技術。
そしてどの工程ひとつとっても水や植物に対する造詣の深さには本当に驚かされる。
小川和紙のフィルムは92年制作で、ちょうど僕が小川に引っ越してきた頃の映像だった。
僕ら家族が越したのは山の上のニュータウンで、山の下の古い町とはほとんど関わりもなく、
結局このような営みが近くであったことを知らないまま町を出てしまった。
僕が見落とした故郷は、少し色褪せたフィルムの中で今尚美しい姿を留めていた。
 
紙漉きには道具が不可欠で、その道具作りも今は継承する職人さんが不足しているそうだ。
極細の竹を編み上げて作る簀(す)という道具の制作風景を見ると、
もうそれだけで一級の工芸作品と言っても過言ではない程、極度に繊細な仕事が要求されるのがわかる。
聞くとその素材の竹自体も、何月にどこどこで採れる竹でないといけないとか。
斜に見ればあまりに執拗なこだわりに映るかもしれない。
しかしこれらはこだわりなんて偏執的なものではなく、
自然の理というものを一番上に据えて、その呼吸に添うように作った結果、
自然に導き出された解なのだと思う。
 
これほど自然と調和した物作りを目の当たりにして、
画材屋で買った絵の具とパネルを使い、やれプリミティブだ、やれ神話だ、
とのたまう自分を恥ずかしく思った。なんて軽いんだ。
ただしかし、道具は使う人がいなければ廃れてしまうし、
その道具で漉かれた和紙だって誰かに活かされなければ続いてゆくことはない。
それを思えば、今の僕の場所でやるべきことはまた別にあるのかもしれない。
原料を育てる人がいて、道具を作る人がいて、制作する人がいて、活用する人がいる。
物作りには皆それぞれ役割があるのかもしれない。
帰り道、僕は自分の役割についてもんもんと考え続けたが、
何かが欠けているような気ばかりして、一向に答えは出なかった。
 
その後、数日経っても頭は晴れる気配を見せなかった。
そんなある雨上りの午後、暖かい風に誘われて発作的に近所の山に初めて登ってみた。
山の静けさにチャンネルを合わせるようにゆっくりと歩く。
木の肌の模様。落ち葉の色と形。枝の交差が生む景色。
そのひとつひとつを丁寧に眺めていると、少しずつ気持ちも落ち着いてくる。
ときどき木々の隙間から海が覗ける。山から見る海はいつもと比べてより神秘的に見える。
家の近くにこんな自然に浸れる場所があることを知り、
机にかじりついてた日々を後悔しながらも嬉しく思った。
何か思考の糸口が見えそうな気がしてきた頃、「ゴー」という低い響と共に拓けた場所に出た。
そこで目にしたものは大きな噴水だった。
無人の公園で、噴水は轟音を鳴らしながら勢いよく空めがけて吹き上がり、
頂点に達した雫は風に流され展望台のデッキを濡らしていた。
展望台からは町や海、明石大橋や淡路島が一望できる。
別の日に訪れたらさぞかし気持ちよかったのだろう。
でもその日の僕にとって、噴水も絶景も、どちらもただ煩わしいものでしかなかった。
せっかく合いかけていたチャンネルは急な騒音によって混線してしまい、
僕はひとり呆然と水の飛沫を見上げていた。妙に悲しかった。
無垢な自然の中に身を置くことはそんなに簡単なことではないんだよ。
陽が落ちかけた空に上がる噴水は、どこか暴力的に、
そう僕に示さんとしているようだった。
 


 
◉本日12月13日(木)は iTohen<昼の学校><夜の学校>の開校日です。
<昼の学校>絵本創作教室、<夜の学校>デッサン教室、どちらも初心者大歓迎です。
ぜひお気軽にご参加ください。

アトリエ


 
 
アトリエ
 
部屋のすみ
転がる絵に
注ぐ西日の
一閃

我が絵とは思えぬ
色彩
ひらく
 
 
 

夢について


 
展示も出版も小休止の中、
まだ形にならない有象無象を頭の中でこねているこんな時期は、
無駄に体が元気なせいか、おかしな夢をたくさん見る。
これが美しいものであれば救いがあるけれど、
僕の見る夢は昔から決まって俗っぽくて、
余程のことがないと絵のネタにはならない。
 
最近妙に多いのが、
ほとんど準備や練習をしていない状態で、
何かの本番の舞台に上がらなければいけない、という夢。
ラッパーだったり、バンドだったり(ベース)、
昨日の夢ではボクシングだった。
ボクシングなんて2秒でノックアウトだろうに、
夢の中の僕は怖がりながらも妙にワクワクして、
シャドーをしたり、試合の運びをイメージしたりして始まるのを待っている。
会場は屋外で、秋晴れのようなさわやかな天気。
家族連れもたくさん見に来ていて、どこか長閑な空気だ。
ショーというよりは競技会のような雰囲気。
名前が呼ばれてリングに上がると、
何故か観覧ゲストで呼ばれたという坂本龍一がいて、
咄嗟に「ファンです」と言いながら握手してもらう。(本当は細野ファン)
いよいよゴングがなって、相手が飛び込んでくる。
僕もがむしゃらにパンチを繰り出す。
そこで夢は終わる。
 
どの夢も共通して、
焦りや緊張と同じくらい、何かを期待しているような気持ちがある。
そして本番のシーンは皆はっきり思い出せない。
舞台に上がる前の数分、数時間だけが残っている。
 
さあ、この夢たちが示唆するものは何でしょう。
 
そんなことをひとり考えていたら、
学生の頃に好きだった、
吉本ばななの「夢について」という本のことを思い出した。
遠くへ旅するときはいつも持って行くお気に入りの1冊で、
僕はこれで原マスミ氏の絵のファンになった。
氏の絵が物語っているように、朗らかだけど切実なエッセイだ。
この文庫が鞄に入っているだけで、僕はどこか特別な気分になれた。
夢についてだから、史実や物語より少し浮力があって旅にはちょうど良かったのだろう。
まさにお守りのような本だった。
 
実のところ、舞台にあがろうという気持ちは、ある。
来年は少しケガするぐらいの何かがしたいと思っている。
(肉体的な激しさという意味ではなく、恥を捨てて取り組むという意味で)
手の内におさまらないことをやらないといかんなぁと。
うまくいくかどうかは夢にも書いてないけれど、
成功の当てが見えない中でこそ事を始めたい。
 
唯一、最近の夢で見て良いアイディアだなぁと覚えているもの。
バンドの夢を見たとき、他のメンバーと一緒にバンド名を考えていて、
長考の末、決まった名前は「てんぷら」。
残念ながら「てんぷら」も演奏シーンは見ることができず、
彼らがどんなサウンドを生み出すかはわからず終いだ。
この夢に限ってはいつか続きが見たいと思っている。
 


 
◉11月の iTohen<昼の学校><夜の学校>開校日は、今週15日木曜日です。
<昼の学校>絵本創作教室、<夜の学校>デッサン教室、どちらも初心者大歓迎です。
ぜひお気軽にご参加ください。

山の音


 
先日、Su-の角谷さんに誘ってもらい芦屋の山に登ったときのこと。
1時間と少し登った見晴らしの良い大きな岩の上で一緒にコーヒーを飲んでいると、
山の下から「ゴー」という音が聞こえてくるのに気づいた。
最初は飛行機かと思ったが、
その音は一度気づいたら途切れることなくずっと鳴っている。
「街の音ですね。あの音の中で僕らは暮らしているんですよね。」
言われてはっとする。
色んな音が混じり合った音はなんだか重たい音だった。
昔はきっとこんな音はしなかったのだろう。
 
こうして見えないところで僕らの感覚は少しずつ緩慢になる。
僕は絵を描くことでそれを少しでも取り戻したいと思うけど、
そのためには街から離れる時間があまりにも少な過ぎるのかもしれない。
 
冬に雪が降るときは山全体が音を鳴らすらしい。
木や葉に雪があたる音だという。
そんなときはとても静かで、その音しかしないそうだ。
 
山から帰ったその足で、
野を歩けるような底の厚い靴を買った。
 


 
◉11月の iTohen<昼の学校><夜の学校>開校日は、15日木曜日です。
<昼の学校>絵本創作教室、<夜の学校>デッサン教室、どちらも初心者大歓迎です。
ぜひお気軽にご参加ください。

壁画


 

 

 
先週は東京の友人宅に滞在しながら、階段の壁に絵を描かせてもらった。
今年5月に開催した『プライベート・レジデンス』※を鑑賞いただいたのをきっかけに、
ありがたくも自邸の壁画制作を依頼されたのだ。
※(取り壊しが決まったマンションの一室に壁画を描いたプロジェクト。
当プロジェクトをまとめた写真集『さくらぎマンション3B』発売中。)
 
「空」と「風」を名前に持つ1歳と3歳のご子息をテーマに、
自由に描かせていただいた。
5泊6日に及んだ制作の合間には、みんなで朝ごはんを食べたり、
子供たちと恐竜ごっこをしたり、近所の温泉に行ったりと、
まるでホームステイをしているような不思議な時間だった。
リビングから漏れ聞こえる泣き声と笑い声。
家の所々に飾られた家族写真。
旅行先で買ったと思われる南の島が描かれた絵画。
鳥の剥製。
家族が寝入った後に漂う静寂。
みんな筆にのった。
 
この絵の袂で大きくなるちびっこ恐竜たちの幸せを想った。
 


 
◉壁画のご依頼、引き続き承ります。
ご興味ある方、まずはmail@kaita-abe.comまでお気軽にお問い合わせ下さい。

◉今週18日木曜日は月に一度の iTohen<昼の学校><夜の学校>開校日です。
<昼の学校>絵本創作教室、<夜の学校>デッサン教室、どちらも初心者大歓迎です。
こちらもぜひお気軽に。

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